ドイツにおける法人設立

法人設立は、法律に規定された条件を揃えることによる許認可制の原則の上に一連のプロセスが成り立っています。今回はドイツで認められている会社の法人形態をご紹介した上で、最も多く利用されている有限会社(GmbH)の設立プロセスの概略をご提供いたします。

法人形態の選択

海外でビジネスを展開するために拠点を設立する際は、まずどの法人形態を利用するかを検討する必要があります。ドイツで一般的な法人形態には、最も多く設立されている有限会社(GmbH)のほか、株式会社(AG)や有限責任事業的会社(UG)があります。これらの法人は、それぞれ独立性、事業規模、税務・会計上の影響が異なるため、事業戦略に応じて適切な形態を選択することが重要です。
一方、ドイツに現地法人を設立せずに拠点を持つ方法として、日本に所在する本社法人のドイツ支店や駐在員事務所を設置する手段もあります。ただし、これらの形態では事業活動に制限があるため、拠点の目的や業務範囲を十分に考慮する必要があります。

法人形態の種類

ドイツで主に利用されている代表的な法人形態をご紹介します。

有限会社(Gesellschaft mit beschränkter Haftung, GmbH)
GmbH(Gesellschaft mit beschränkter Haftung)は、日本における「有限会社」に相当します。日本では2006年の会社法施行により、新たに有限会社を設立することはできなくなりましたが、ドイツにおいては現在もなお最も一般的な有限責任形態の法人であり、ドイツにおいてGmbHを設立するためには、最低資本金25,000ユーロが必要です。そのうち、設立時には12,500ユーロ以上の払込(Einzahlung)があれば足ります。GmbHはドイツ市場での信頼性が高く、本格的に取引を行いたい企業には適しています。

有限責任事業会社(Unternehmergesellschaft, Mini-GmbH, UG)
UG(Unternehmergesellschaft)は、2008年の有限会社法改正によりGmbHの簡易版として新たに導入された形態であり、日本において直接対応する法人形態は存在しません。設立時の最低資本金は1ユーロ以上のため、出資者が負う責任範囲がが限られています。一方で利益の最低25%を資本準備金として払い込む必要があるため、普通のGmbHになるまでは利益配当が制限されます。そのため、少ない資本金から始めたいスタートアップ等に適しています。

株式会社(Aktiengesellschaft, AG)
株式会社(Aktiengesellschaft、AG)は、上場を前提とした大規模な法人向けの法人形態です。AGが資本市場を活用しながら、大規模な投資を伴う成長を目指す企業には向いているのに対して、GmbHは株主の有限責任の特色を維持しつつ、AGを簡易化して運用コストを抑えることができるのがポイントです。そのため中小企業はAGよりもGmbHの方が適しているといえます。

その他の人的会社形態
他にも、独民法上で認められる組合(GbR)、合名会社(OHG)、合資会社(KG)などもドイツでは会社形態として存在します。これらは無限責任を有する社員から成り、基本出資金を必要とせず、簡易に設立できる会社として利用されていますが、日本での合名会社や合資会社とは異なり、法人格を有しません。

GmbHおよびUGの利点
・責任の限定:創業者は出資した資本金の範囲内でのみ責任を負います。個人資産は原則として保護されます。
・信用力の向上:有限責任の法人形態は、出資された資本金の存在によって投資家や取引先からの信頼性が高まります。
・資金調達の柔軟性:持分(Gesellschaftsanteile)は容易に分配・譲渡が可能です。
・所有関係の誤解を防ぐ:GmbHまたはUGの全株式(Anteile)は、例えば日本の親会社が100%保有することが可能であり、資本関係における誤解や不透明さを回避できます。

GmbHおよびUGの設立手続き

a. 定款の作成と承認
会社の定款(Satzung)を作成し、関係当事者(株主・取締役など)の合意を得ます。定款には、商号、所在地、事業目的、基本資本金、出資者(発起人)の出資比率を記載しなければなりません。出資者は、自然人または法人のいずれも可能であり、1人から設立できます
b. 公証手続き(定款の認証)
GmbH・UGの設立には、定款をドイツの公証人の面前で署名・認証することが必要です。代表者がドイツに来れない場合は特定の認証手続きを経て、代表権に関する宣誓書の役割をもつ「委任状(Vollmacht)」を利用します。委任状については下記*参照。
c. 銀行口座の開設
法人名義の銀行口座をドイツ国内で開設します。
d. 資本金の払込
GmbHまたはUG設立に必要な資本金を開設した銀行口座に払い込みます。
e. 商業登記への登録(Handelsregistereintragung)
 会社を公式に設立するには、ドイツの商業登記所(Handelsregister)に登録されなければなりません。日本と同様に、会社の法的存在は登記によって認められます。
f. 税務当局への登録(Steuerliche Erfassung)
商業登記が完了すると、税務署(Finanzamt)への登録手続きが行われます。これにより、税番号の取得や納税義務が確定します。

*出資者個人もしくは代表がドイツに来れない場合の「委任状(Vollmacht)」
‍委任状には、会社設立のための契約締結や定款認証、商業登記申請などの権限を明確に記載します。
委任状が必要な場合は以下の通りです。
・法人を設立する主体が個人である場合、その出資者個人がドイツに来れない時。
・法人を設立する主体が法人(親会社)である場合、その法人(親会社)の代表がドイツに来れないとき。
委任状は基本的にドイツ語で作成する必要があり、出資者または代表者の署名が必要です。
署名は、在日ドイツ大使館領事部または各公館で行います。
日本の公証人の前で行うこともできますが、その場合は以下の書類の提出が追加で必要です。
・法務局が発行する「法務局長の証明」
・外務省が発行する「アポスティーユ」
また、出資者が法人である場合には、法人および代表者の適法な存在を証明するために、
・会社の履歴事項全部証明書と公認翻訳者による同書類のドイツ語の翻訳
を添付する必要があります。

GmbHおよびUGにおけるガバナンス機関
・株主総会(Gesellschafterversammlung):
株主総会が最高意思決定機関となります。定款の変更、取締役の任免、決算承認などが決議されます。
・業務執行取締役(Geschäftsführer):
日常業務の執行および対外的な代表を担うのGeschäftsführerです。
・監査役会(Aufsichtsrat、任意):
監査役会の設置は原則任意ですが、従業員が500名を超える場合には設置が義務化されます(共同決定法:Mitbestimmungsgesetz に基づく要件)。

当法律事務所のサポート

ドイツでの事業展開を成功させるには、適切な法人形態の選択から様々な条件を揃える必要がある設立手続きや、その後の諸関係当局との対応など、多岐にわたる検討と準備が必要です。
当法律事務所では、クライアントのスムーズなドイツ市場参入を実現するために設立計画立案、各種届出や法的手続き代行、設立後の資金調達などの成長戦略支援まで、ワンストップでサポートいたします。